148人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
***
右首に違和感を覚える。
緩慢にしか動かない身体に鞭打つように右手をのっそりと持ち上げて触れてみる。
「……フェンめ」
ご丁寧にヒトの意識を奪った上で何をしてくれてやがるんだと心の中で罵り、殺意の上乗せが即断される。
腹立ち紛れに引き抜いてやろうと点滴の管を引っ張るも起き抜けの握力では弱過ぎたようで、点滴の本体から管が離れただけで、肝心の首には管が生えたままになってしまった。
顔をしかめ、忌々しさを隠すことなく舌打ちする。
……縫ってやがる。
末梢静脈点滴とは異なり、中心静脈点滴は固定のためにテープだけではなく2ヶ所、もしくは4ヶ所を縫合固定した上で更にテープ固定するのが当然のことだ。
分かってはいるが腹立たしい。
鉛のように重い身体を意地だけでベッドから強引に引き剥がし、襲ってくる目眩を振り払うべく緩く頭を振りながら座位を取る。
部屋には陽光が差し込んでいた。
その角度を鑑みれば、時刻は既に昼を過ぎていることがわかり、また顔をしかめる。
起き上がった途端、点滴から離れた点滴の管はあっという間に血を逆流させ始め、ベッドの上に赤いドット柄が生み出した。
心底鬱陶しそうにそれを眺め、朔は今度こそ引き抜こうと両手で点滴の管を掴んだ。
「こらこらこらこら!!」「待て待て待て待てーい!」
奥の扉がスパンと滑るように開き、顔を覗かせたフェンと幸継の声が重なる。
幸継辺りが血の匂いに気付いてしまったかと思いながら、待てと言われて待つヤツがいるか、と朔は目を眇め、一気に引き抜いた。
ぶちぶちと縫合部分の皮膚が引っぱるように千切られる形になったから地味に痛い。
「Noーーーーーっ!!!」
馬鹿みたいに叫んだフェンの声が五月蝿すぎて反射的に両手で耳を塞ぐ。
「阿呆か、お前!!」
続いて叫んだ幸継の声も両手でガードしていたと言うのにやはり耳をつんざく大声でげんなりする。
その間も首元からぬらりくらりと抜け出した血がシャツの色を塗り変えて行くことは分かっていたし、それでいて錆びた匂いが不快でしかなかったが、それすら正直どうでもいい気分だった。
「お前な、空気塞栓みたいになったらどうすんねんな!そんな座った状態で圧迫もせんと抜くなんざ自殺行為やぞ」
ギャンギャンと五月蝿いフェンを無表情に眺め、首元から流れ落ちて行く血をとりあえず止めようとハンカチで圧迫を試みてくる幸継の手を払う。
最初のコメントを投稿しよう!