37人が本棚に入れています
本棚に追加
それは突然の出来事だった。
何の前触れもなくその事故は、僕を絶望の淵へと追い込む。
どうしようもないその事実に対して、逃げることもできず、ただ起きたことを呆然と眺めることしかできなかった。
眼下には横たわる彼女。それを中心に赤いカーペットがゆっくりと広がっていく。
今朝のように、指先で彼女の頬をつついてみた。
――冷たい。
いつもの温もりなどなく、誰だけ引っ張ってもピクリとも動きやしない。
蒼白くなっていく彼女の顔を見て、体の底から悪寒が走り、吐き気を覚える。
しかし、その気持ちが実態となって外界に現れることはなかった。
家族以上に大切な人だったはずなのに。彼女の為なら命を投げ出すことなど厭わなかったはずなのに。
なにより僕は、彼女のことを世界で一番愛していたはずなのに。
――それなのに、涙一滴出てこない。
余りにも唐突過ぎたから?――いや、そうじゃない。
彼女が死んだと信じきれていないから?――ううん。これもちょっと違う。
たぶん。僕がまだ心のどこかで『彼女が生きていると信じている』からだ。
最初のコメントを投稿しよう!