プロローグ

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それは突然の出来事だった。 何の前触れもなくその事故は、僕を絶望の淵へと追い込む。 どうしようもないその事実に対して、逃げることもできず、ただ起きたことを呆然と眺めることしかできなかった。 眼下には横たわる彼女。それを中心に赤いカーペットがゆっくりと広がっていく。 今朝のように、指先で彼女の頬をつついてみた。 ――冷たい。 いつもの温もりなどなく、誰だけ引っ張ってもピクリとも動きやしない。 蒼白くなっていく彼女の顔を見て、体の底から悪寒が走り、吐き気を覚える。 しかし、その気持ちが実態となって外界に現れることはなかった。 家族以上に大切な人だったはずなのに。彼女の為なら命を投げ出すことなど厭わなかったはずなのに。 なにより僕は、彼女のことを世界で一番愛していたはずなのに。 ――それなのに、涙一滴出てこない。 余りにも唐突過ぎたから?――いや、そうじゃない。 彼女が死んだと信じきれていないから?――ううん。これもちょっと違う。 たぶん。僕がまだ心のどこかで『彼女が生きていると信じている』からだ。
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