第一話 それでも思いは届かなくて。

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視線を落とすと、笑みが崩壊しつつある彼女の右手には、携帯電話が握られている。あれは、どういった意思表示なのかしらん。 「もしもですよ。ここで法に触れるような発言をした場合、僕はどうなるんですか?」 「それはもちろん。監獄の中」 やっぱりかぁ。ここで『監獄』という単語をチョイスすることにより一層恐怖が増す。 まさに今、人生の分岐点に立っている。一体全体どういった発言をすれば、僕は監獄という名のバッドエンドを避けることができるだろうか。 助けて予言者! そして可鈴さん。誰に電話しようとしているのかな? 「警察ですか? あのー」 「ちょっと待ったぁああああ!」 急いで、彼女の耳に当てられた携帯を奪い去る。 「早まらないで! 僕は無実潔白! 純真無垢な一般男子高校生だよ!?」 「……ふふふ。冗談よ。なんか翔の必死さ見てたら興がそがれたわ。学校に行きましょ」 お日様のように微笑む可鈴を実見して、心が暖かくなる。これはいつもの彼女に戻った証拠だ。 それに対してどう反応したものかとすっかりおじけついてしまった僕は、取り合えず携帯を返した。
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