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「なになに? 教えてよー! 恋? 勉強? いやいや、カズにはこの2つの悩みはないかー。ということは……家族間のお悩みですね?」
嫌な汗が背中からぶわっと噴出す。相変わらず鋭い。そんなに頭が回るならどうして勉強に発揮しないのか。彼女の荒げた鼻息が首筋にそよぐ。近い。非常に近い。更に耳元で「教えて」という念仏まで始まった。ああ、殴りたい。そして鉈とハンマーでバラバラにしてやりたい。
「わかった。わかったから。いえばいいんでしょー! 言えば!」
目を輝かす陽子。昔から彼女はこんな感じだ。そして私も何故か彼女にはぽろっと話してしまう。進歩がないな……。
「けど絶対に言わないでね。これはある意味、警察沙汰になりかねないから」
「そんなヘビィな悩みなの!? なになに! 面白そう!!」
面白そう? あれ? この子いま面白そうって言った? あれ? 完全に面白がってるよね? 当人目の前にして。
多少、腹も立ったが1人で抱え込んでても仕方ない。陽子の満面の笑みを見てため息は少し軽くなった気がした。
「実は……」
「じ、実は?」
息を呑むゴクリという音が聞こえる。辺りには人はいないが誰がどこで聞いてるかわからない。再び周囲を確認してそっと彼女に耳打ちする。もちろん声を潜めて。
「お兄ちゃんがね……2週間前に……」
「な、なん……だと?」
「だから……」
「お兄さんが全裸で逃亡したってえええええええええええええええ!!??」
金曜日の閑静な住宅街。8時半頃響く親友の驚愕の叫び。私は薄ら暗い笑顔で彼女の頬をひぱったきました。
「神の子は右の頬を叩かれたら左の頬を差し出すそうだ。だが敢えて右の頬を差し出しなさい」
「敢えてまた同じ頬を叩くんですか!? っていうかソレは叩かれないための術ではないんですか!?」
生まれて初めて他人に心からの殺意を抱いた朝でした。
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