1 道端の糞

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 1  何で私こんなことしてるんだろう。  明朝に道端のうん……いや、誰かの便を埋めようと、私は林道を外れて小川の方までスコップを取りに来ていた。  この辺はよく父が畑を耕していて夏にはいろんな野菜が採れたけれど、1年前に腰を悪くして今では畑には手が着いていない。お父さんが唯一趣味と呼べる物だっただけに、自分でできない辛さは相当なものだと思う。だからまだちゃんと納屋の中に保管してあるんだ。  森の中を歩いて20分。もうバスには間に合いそうもない。どうしようか学校……遅れてでもいかなきゃ皆に心配かけちゃうな。なんで私、あんなの片付けるのに汗かいてるんだろう。  そうこうしてるうちに微かに水の流れる音が聞こえた。もうすぐだ。考えるのは後にしよう。でもなんて言ったらいいのか。本当のことを言ったら笑われそうだ。  やがて背の高い樹木の影は薄れて日が差し込んでくる。視界に小川の淵を見てようやく私にも笑顔が返ってきた。 「あれ?」  ピタリと足が止まる。どうしてあんなところにスコップがあるんだろう? 私の視界に入ったのは小川だけではなく、その脇に突き立てられた見覚えのあるスコップだった。  柄が泥で汚れてる。誰かが使ったのか。自分の部屋に勝手に上がられたみたいでなんだか少し嫌な気分になる。でも探す手間も省けたし、よしとしよう。と、そのスコップに近づいたときだった。 「おい中学生。俺の畑に何の用だ?」  背後から抑揚のない男の声が私を引きとめた。 「ひっ!」  突然のことにびくりと身が小さく跳ねる。こ、ここの人!? ああ、どうしよう……勝手に入っちゃったよ……え? 「おい中学生。聞いている。俺の畑に何用だ?」 「お、俺の畑って……ここは私の家の敷地ですし……それに中学生って……そりゃあ確かに背は低いけど。私は高校せ……」  そう言いながら振り向いたとき、その声の主の圧倒的な存在感に私の思考は停止した。
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