勇者と英雄

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 やばい、死ぬ。  齢10にして松風刀哉は生まれて初めて死の覚悟をした。  それほどまでに絶望的な光景だった。  闘技場のように円の形をしたどこか近代的なドーム状の密閉空間。  刀哉の後ろで震える幼馴染。  恐怖を倍増させる薄暗くひんやりした空間。  静寂の中響く、二人が後ずさり起きる靴の音。  自分の手にある真ん中で折れた小型ナイフ。  そして、刀哉たちの身長の倍はあり、今にも殺しに来そうに迫る、四つの鈍く輝く鎌を持った鋼鉄のカマキリ。  カマキリの体の節々や、四つの鎌にはそれらを囲むように何らかの文字列がフラフープのように円状に浮遊し展開する。  意思の疎通は不可能で、敵であることは明らかで、十歳の彼らにはどうすることもできない。  刀哉の脳裏に自分たちの惨殺死体の映像が走った。 「ぁ―――」  後ろの幼馴染が声を漏らした、その瞬間。  ぞわり、と悪寒が背筋を通り、  不可思議な文字による幾何学模様をまとう、巨大な金属質のカマキリからの攻撃の予兆を刀哉の視覚が感じた。 「ッ―――!!」  避けようにも足が竦んで動けない。思考には死しか無い。  刀哉は歯を食いしばり、ナイフを強く握りしめ、目をつぶった。  もはやその姿には怯えしか見られない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!