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やばい、死ぬ。
齢10にして松風刀哉は生まれて初めて死の覚悟をした。
それほどまでに絶望的な光景だった。
闘技場のように円の形をしたどこか近代的なドーム状の密閉空間。
刀哉の後ろで震える幼馴染。
恐怖を倍増させる薄暗くひんやりした空間。
静寂の中響く、二人が後ずさり起きる靴の音。
自分の手にある真ん中で折れた小型ナイフ。
そして、刀哉たちの身長の倍はあり、今にも殺しに来そうに迫る、四つの鈍く輝く鎌を持った鋼鉄のカマキリ。
カマキリの体の節々や、四つの鎌にはそれらを囲むように何らかの文字列がフラフープのように円状に浮遊し展開する。
意思の疎通は不可能で、敵であることは明らかで、十歳の彼らにはどうすることもできない。
刀哉の脳裏に自分たちの惨殺死体の映像が走った。
「ぁ―――」
後ろの幼馴染が声を漏らした、その瞬間。
ぞわり、と悪寒が背筋を通り、
不可思議な文字による幾何学模様をまとう、巨大な金属質のカマキリからの攻撃の予兆を刀哉の視覚が感じた。
「ッ―――!!」
避けようにも足が竦んで動けない。思考には死しか無い。
刀哉は歯を食いしばり、ナイフを強く握りしめ、目をつぶった。
もはやその姿には怯えしか見られない。
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