少年は只勇者であるが故に幕開けを知る

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 そのようなことがあり。 蔵凪市の、街から離れた住宅地。きわめて一般的な家の庭からパシッ、スパンッ、などと、なにか肉を打ち合う音が連続して鳴っていた。 その家の庭で、人が二人、闘っているのだ。拳法の乱捕りのようだった。 一人は男、もう一人は女だった。 男の容姿を言うならば、中肉中背、典型的高校生のような、特にこれと言って言うべきことのない少年、と言ったところだ。服装も上下ジャージである。 それに対し、既に成人しているであろう美麗な容姿をもつ女はいくつかの特徴があった。  まず、他には無いであろう程に鮮やかな黒髪。彼女はそれを背中の辺りまで伸ばし、一挙一動についてはねさせていた。  また、もう一つはねているものがあった。勾玉のネックレスだ。それの色合いは黒だがそのなかにはいくつもの光の反射が、星のようなきらきらを瞬かせていた。  そして、細く、しかしたくましさをみせている四肢。彼女は素早い拳撃や鋭い蹴打を腰の動きとともに繰り出し、ひっきりなしに、間髪いれずに繰り出していることから、そうとう鍛え、そうとう場慣れしているのだろう。(実際、日本の拳法は実践の練習はしない為)  服装こそ黒Tシャツにダメージジーンズと普通だが、彼女は――年の若さに似合わず――どこか強者の雰囲気をまとって見えた。  拳打、蹴撃を腕の内側でいなしているため、疲労はあれど過度な痛みは(腕以外の場所には)なさそうだった。  よくよく二人の手合わせを見ると、少年も弱くは無いのだが、やはり女のほうが押していた。  さらに男の額には汗がうかび、攻撃をいなすのが精一杯で(それでも全てをいなせているわけではない)苦戦の色が感じれるのに対し、彼女は息一つ乱していない。
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