少年は只勇者であるが故に幕開けを知る

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 と、ついに蹴拳の応酬に終わりが見えた。  女の足が勢いよく放たれ、少年の肩を打った。正確に関節を狙っていた。  少年が打ち出そうとしていた拳はその蹴りによって、突きのための貯めの段階から、かえってバランスを崩す羽目となった。  重心を前にする突きの瞬間に肩口を蹴り、重心を後ろへ無理矢理移動させたのだ。  そして、少年後ろによろけた隙を逃さず、女は少年を転ばせ、マウントをとった。  女はそこで終わりの合図のように、ふぅと、息をはいた。 「毎度毎度のことだけど。ねぇちゃん、強すぎだ」  少年が言う。若干諦めの念が混じっていることから、このセリフはいつも口にしていたのだろう。 「ふん、刀哉よ、お前はまだまだだな」  女はマウントポジションから離れ、少年――明日から高校一年となる刀哉を見下ろし言い放った。 「いや、ねぇちゃんが強えだけだろ」  ぼそり、と刀哉が呟くと、 「刀哉よ、いっただろう、私はそうやって言い訳をして現状から逃げようとする奴が大嫌いだと」 「いや、でも」 「ふん、『でも』なんだ?刀哉、お前が用意した異論で私を論破できるのか」 「……すいません無理です」  刀哉の姉――刀里は一切の異論を禁じつつ言い下す。いつも通りだった。 「刀哉、お前のその突きは連続技の始発点らしいが、いかんせん貯めが少し長い。改善しろ」 「改善しろったって……そう簡単なもんじゃねぇだろ。他の流派ならいざ知らず、うちのは攻撃性の強い流派だし。そんな改善が簡単にできるもんじゃないだろ。」 「その程度は自分で考えつけ。何年やっているんだ」  ぐぅの音も出なかった。
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