日常会話集①

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高校三年生の一学期。 俺たちがまだヴォルガーナとの関わりを持つ前の話だ。 その頃は、丁度その話題で盛り上がっている時で、一般生徒はもちろん先生も全く通らない学校の離れにある廊下で俺たちは大いに夏休みのスケジュールを立てていた。 「やっぱりさ~、海行ってスイカ割りしてナンパして花火して森内荘っていう感じがいいんじゃね?」 提案するのは、ツッコミ隊長の橋下亮介(はしもとりょうすけ)だ。 こないだ18歳になったこの早生まれの猛者だ。 彼は、ストレートパーマをかけた髪を手で揃えながら皆の顔を伺った。 「それいいね!なら、その感じでいっちゃいまするか?」 橋下の右隣で適当な語彙で肯定したのが珠季友庫(すずきゆうご)。 歳は17歳。この中じゃ一番遅生まれだったかな。 「いいけどさ…その…」 口を噤んで控えめに喋るのは梶巻のび太(かじまきのびた)だ。 サラサラな髪質にメガネの小顔で身長も小柄。 普段は落ち着いていて中身と外見が正に比例した優しい性格なのだが、実は腹黒の隠れS。 冷静な所にそれが現れているといってもいい。 たまに思いがけない言葉で俺たちを苦しめるのだから侮れないメガネっ子だ。 「どうしたんだ?のび太?」 俺は、俯くのび太に声をかける。 「あのね…その森内荘っての…」 「森内荘がどうかしたのか?」 言わずとも分かるだろうが、この森内荘はかなり有名な心霊スポットで、他県の人間も名前くらいは聞いた事のある危険な場所なのだ。 噂によると、入った者は必ず殺される、なんて言われているらしい。 今じゃ俺たちの中でヴォルガーナという名前で慣れ親しんでいる場所だ。
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