偽浮感

3/13
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 私は一緒に不幸になってくれる人が好きだった。恋人とかいう依存関係はいらない。「あなた無しでは生きていけない」なんてなんてバカらしい言葉だろう。どうせ自己陶酔なんだろ。「あなた」が好きな、自分が好きなだけ。だから一緒に地獄の底まで付いて来てねなんて恋人はいらない。  ただ傷を舐めあって、お互いが自分より不幸なのを見て確認して安心して、慰めながら心の中でにやりと笑うのです。時には相手が自分より幸せなのを見て、自分は不幸だとまた陶酔する。  私にはそれしかなかった。そんな麻薬を打ち続けていました。  だから、他人の幸せが、一緒に不幸だと思っていた友人の幸せが、鋭く突き刺さるのです。 私は仮初でも、私を友人だと思ってくれた友人の結婚式で。一緒に不幸を体験して、不幸体験を積み上げてきた友人に訪れた、初めての愛情に。  ことごとく、私は鋭いもので突き刺されるのだ。  そんな人間の形をした自分のほつれを、必死に取り繕いたくて、私は心にもない賛辞と応援を、盛大に過剰に送るのだ。  そうやって、涙が零れないように。そうやって、幸せな人を恨む汚い気持ちをなんとかして拭き取ろうと雑巾を擦り付けるように。  そうやって、人間の皮を被った「欠陥品」はぐねぐね人型を崩しそうになるのを、ううううううと小さく呻きながら、笑顔でメッセージを送るのです。   さて、世界に愛などあるでしょうか。世界にはあるとしましょう。私の世界にはあるでしょうか。答えは「無い」の一択です。 例え、私に恋人がいたとしても。その恋人がどんなに愛を注いでくれても。私の世界では愛なんて認知できないので、それがなんだかわかりません。  浮いています。私は愛を視えないのに、視えると嘘を吐いて偽って、浮いています。目の前の友人の顔もわからなくなるくらい、忘れそうになるくらい、体から空気が抜けていくのです。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!