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だけどちょっと意地悪してみたくなった。今まで不満が溜まっていたのは本当なんだ、ちょっとした仕返しくらいしたっていいだろ?
「なぁ友人、だったら証拠見せてくれるよな?」
「は? なんの。」
訝しげに眉をひそめる友人に含み笑いで応えるけれど、当然言葉にしなければ伝わらないわけで。
「いや、なんだよその顔。すっげぇ嫌な予感すんだけど。」
更に眉間のシワを深くする友人は続けた、「お前がその顔する時はろくな事がねぇ」と。だけどその嫌な予感は見事に当たってたりする。
悪巧みする時の弾むような気持ちをそのまま顔に表現して、友人の膝に跨り、厚い胸板を力いっぱい押して仰向けに寝かせてやった。
ぎょっとする友人の顔を見下ろすこの瞬間、これがなんとも堪らない。今まで何度か同じ事をしてきたけれど、この自分より体格のいい男を組み敷く危険な高揚感は、何度味わっても最高だ。
「俺が好きならさ、俺の言う事聞けるよな?」
ゆっくり体をかがめて、未だに何の事か理解できてない友人の耳にそっと囁いた。
「動くなよ?」
その瞬間、ようやく自分が何を要求されたかわかったのだろう。
「はぁ!?」
反射的に抗議するような声を上げて俺の肩を掴んできたから、もう一度声を落として「俺の事、好きなんだろ?」と、ゆっくり言い聞かせるように言うと、奴は大人しく腕を下ろした。
思い通りになった事で気を良くした俺は、その頬に軽く口付けた。一つ落とす度に音を鳴らして、少しずつ下へずらしていき、首筋にそっと舌を這わせると、また友人の腕がピクリと動く。
上から押さえつけている筋肉質な太い腕は、触れているだけでも力強さが伝わってくる。きっとその気になればいつでも俺を組み敷く事が出来るだろう。だけどさっきの俺の言葉がそれを阻止している。
今この場を支配しているのは、間違いなく俺だ。
「っ、おい、耳元で笑うな。くすぐってぇ。」
思わず漏れ出た吐息に身をよじる友人だけど、それ以上の抵抗は見られない。
ちゃんとお前の事が好きだから――と、体で表現しているみたいで、なんとまぁ健気というか律儀というか。
反応が良かった耳を甘噛みすると、体が跳ねたと同時に舌打ちが飛んできた。
こういう時に舌打ちって……ムードねぇ奴だなホント。だけど今はそれすら可笑しくて愛おしい。
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