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一方、空港内のロビーに飾ってある世界のおもちゃと題したブースの前に、一人の青年が釘付けになっていた。
「・・・・・・。」
黒のキャップを深々と被り、黒のパーカーと黒のパンツ。そして黒のマスクとグローブに黒の靴。全身真っ黒である。
身長が高く、細い手足は長くて頭が小さい。まるで外国のアニメに出てくるような姿で、歩くときは専ら猫背。
だからすぐわかるのである。彼が人気バンドVILLAINSのボーカル、マルファスだという事が。だが、当然わかる人が見ればの話だ。
何人かの警備員がいつの間にかマルファスの周りに集まっていた。どう考えても全身黒づくめは怪しすぎた。
「すいません、ちょっとよろしいですか?」
「・・・?」
マルファスはビクッとして後づさりした。その時だった。丁度パイモンと篠原がマルファスを見つけて走ってきた。
「いた―――!探したぞマルファス。行くぞ!」
そう言って、パイモンは名残惜しそうに世界のおもちゃを見るマルファスの腕を引っ張った。
その間、篠原が一生懸命、警備員に事情説明をしていた。
引っ張られながらマルファスは、パイモンにぼそぼそと話しかける。
「・・・・ねぇパイモンくん。ロシアのマトリョーシカって日本にも売ってるかな?」
「は? 知らねーけど、売ってるだろ。ロフトとかその辺にあるんじゃねぇの? それより、ベレトの前でマトリョーシカ見てたから遅れたとか言うなよ。キレるから。」
呆れ顔のパイモンはマルファスを連れて、タクシー乗り場まで戻ってきた。マルファスはよく迷子になる。(もちろんマルファス自体は迷子だと思っていない。)
タクシーまで歩きながら、マルファスは横にいた篠原に、ロフトに行く時間があるか聞いていた。
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