第1章 1ー3

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肩ほどの高さがある防波堤が道路脇に続いていた。 防波堤を隔てた向こう側はごつごつとした岩場があり、その向こうには青と言うより極めて碧色に近い海が広がっている。 さきほどまで荒れていたはずの海が、今はすっかり静まり返っていた。 穏やかな波の音が、暑さの中に若干の涼しさを感じさせてくれる。 潮の香りを胸一杯に吸い込みながら、志穂は商店街への道のりを急いでいた。 何気なく海に目を向ける。 大きな岩の上から釣糸を垂らす子供の姿を見つけ、志穂はその場に自転車を止めた。 あれは、幼馴染みでクラスメートでもある、長岡修司の弟の勝だ。そしてその横には……。 (さっきの人だ……) 駅前で見かけた少年だ。 釣りをする勝の横で、どうやらポイントを教えているらしい。 志穂の視界の中、勝は次々と大物を釣り上げていった。 「知り合いなのかしら」 小さく呟くと同時に、少年がくるりと振り返った。 瞬間、志穂の背に冷たいものが走った。 遠目に見るその眼差しに、ひどく冷酷なものを感じたのだ。 「あ、志穂お姉ちゃん!」 勝が志穂に気づき、嬉しそうな声を上げた。 手を振る勝に、ためらいながらも微笑みを返す。 勝が何度も志穂を呼びながら手招きしている。 (怖くなんかないわよ。私らしくもない……) 依然として冷たい視線を投げる少年に怯えつつも、志穂は防波堤を乗り越えて勝の元に向かった。 勝が待ち遠しそうにこちらを見ている。 志穂は不安定な岩場を、両手でバランスを取りながら進んだ。 ささやかに揺れる海面に浮きが大きく引き込まれ、勝は慌てて体を海に向けた。 その時、 「あっ!」 ぐらつく岩に足を取られ、あっと思った瞬間に志穂は大きくバランスを崩していた。 「痛ぁ~……」 堅い岩に両膝を打ち付け、とっさについた手のひらがひりひりと痛む。 少し血が滲む手のひらをほろい、立ち上がろうとしたその時、うっすらとした影が体に被さるのを感じ、志穂はぎくりと顔を上げた。 「!」 目の前には少年が立っていた。 射るような眼差しに恐怖を覚えると同時に、志穂の中に一つの疑問が込み上げてきた。 勝がいる場所からここまでは、まだかなりの距離がある。 バランスを崩す前、ほんの数秒前まで、少年は勝の傍らにいたはずだ。 瞬きさえ忘れて少年を見上げる。少しも表情を崩さずに、少年が無言で手を差し出した。
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