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懐かしさが溢れ、志穂は石段の鳥居の傍に段ボール箱を置いて、神社の社へと歩き出した。
社を通りすぎて裏側へ出る。
そこには、海を司る綿津見神の祠がどっしりと地面に腰を据えていた。
「何も変わってない……」
小さくても威厳に溢れる綿津見神の祠。その隣で、まるで雨や風や強い陽射しから祠を守るように枝を広げた桂の神木。
そしてその向こう。
赤茶けた土が剥き出しになった断崖絶壁。
その下に打ち寄せる大小の波。
「こんな所から落ちたって言うのに、修ちゃんたらよく無事だったわね……」
子供の頃を思い出し、志穂は感心したように呟いた。
あれは小学生の頃の事だった。
ここで遊んでいた修司は、桂の神木に登ろうと太い幹に手をかけた。
この樹には不思議な力がある。
昔からこの樹に登ろうとした者は、ことごとく不幸に見舞われた。
実際、何人もの若者が大怪我をしているのだ。
その事を両親から聞いていた志穂は幼いながらも恐ろしくなり、必死になって修司を止めようとした。
しかし、修司はその手を振り払う。そして……。
あの時、修司が二股に分かれた桂の幹にたどり着いた時だ。
海からの穏やかな風が一変して突風になった。
バランスを崩した修司は、そこからまっ逆さまに下へと落ちたのだ。
絶壁の所々に生えた木に引っ掛かり、かすり傷程度の怪我で済んだのは、奇跡と言っても過言ではなかった。
それ以降、柵が設けられたのは言うまでもない。
「志穂ちゃん」
突然背後から声をかけられ、幼い思い出の中から現実に引き戻される。
振り返ると、そこには白い口髭をたくわえた神主が、穏やかな微笑みを浮かべて立っていた。
「すまんのぅ、大した量じゃないのに配達なんぞ頼んでしまって」
申し訳なさそうに言う神主に、志穂は笑顔で首を振った。
「今日は孫が来る予定でな、あまり家を空けられないんじゃ」
「孫……?」
「昼過ぎには着くと言っておったんじゃが、どこをほっつき歩いてるやらまだ顔を見せん」
志穂の頭に綿貫皇太の顔が浮かんだ。
「お孫さんて、どんな人?」
「そうじゃな、無愛想で無作法で無口で目付きが悪くて、その上、口を開くと恐ろしく言葉が悪い。全く、あんなひどい奴には生まれてこのかた、会った事がないわい。背は志穂ちゃんより頭一つ分ほど高いかのぅ」
自分の孫とは言え、神主は思い付く限りの悪口を並べ立てた。
しかし志穂は、
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