第1章 2ー2

2/3
前へ
/35ページ
次へ
「全く!転入早々どういう事だ?!」 高橋の怒鳴り声が職員室前の廊下に響き渡り、志穂はドアの小窓から恐る恐る中を覗き込んだ。 顔を真っ赤にして怒る高橋の前には、正座させられた皇太と修司の後ろ姿があった。 「やっぱり修ちゃんだわ……」 余りにも予想通りで、志穂は呆れ返ってしまった。 この場所からは二人の背中しか見えないが、どんな表情をしているか、大体想像がついた。 「先に手を出したのはどっちだ?!」 怒りに震える声で高橋が問う。 その口元には殴られた跡がくっきりと残っていた。 乱闘を止めに入った際に二人のどちらかに殴られたのだろう。 しかし、高橋のこの詰問は愚問に思えた。 ケンカ好きの修司に決まっている。 修司は三度の飯よりケンカの方が好きなのだ。 それにしても、気の毒なのは神主だ。 高橋の横に立ち、ひたすら頭を下げ続けている。 「今日は長くなりそうね……」 志穂は短く息を吐くと、壁にもたれ掛かってそのまま床に腰を落とした。 依然として響く高橋の声を聞きながら、志穂はうんざりした。 あの二人、月曜日から上手くやっていけるのだろうか。 一抹の不安が頭をよぎる。 どうやら高橋も落ち着きを取り戻しつつあるようだ。 先ほどまでの怒鳴り声はもう聞こえない。 (そろそろ解放される頃かしら) 様子を伺おうと立ち上がりかけたその時、 ガラッ!バン!! 「きゃっ!!」 勢い良くドアが開き、驚いた志穂はその場に転ぶように座り込んだ。 口をあんぐりと開け、乱暴に開いたドアを見る。 そこには顔中傷だらけの皇太と修司が立っていた。 「修ちゃん!」 志穂は弾かれたように立ち上がると、血が滲む修司の顔に手を伸ばした。 「どうしていつでも誰とでもケンカになるのよ、あんたは!」 修司は志穂の手を顔をそむけてかわし、苛立たしげに睨み付けた。 「だめよ、私にそんな目をしたって。消毒しなきゃ化膿しちゃうわ」 「うるせぇな、放っとけよ」 志穂の言葉を低い声で遮り、修司は隣に立つ皇太に視線を移した。 お互いに無言のまま、睨み合う。 志穂はひき止めるように修司の腕をつかんだ。 やがて、皇太は一瞬口元にうっすらとした笑みを浮かべ、ゆっくりと踵を返して歩き出した。 「全く、先が思いやられるわい」 少し遅れて職員室から出てきた神主が、困り果てた口調で呟きながら足早に皇太の後を追って行った。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加