第1章 3ー1

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明くる日。 昨日とは打って変わり、空は吸い込まれそうなほど青く晴れ渡っていた。 緩やかに湾曲した海岸線の左手、はるか遠くの海水浴場が、人で賑わっているのが見える。 岩場の波打ち際で、勝は今日も釣りにいそしんでいた。 防波堤を隔てた歩道には、勝の小さな自転車と修司の白いバイクが停まっていた。 釣り上げられる魚を狙っているのだろうか、上空には一羽のカモメがゆったりと旋回していた。 「昨日、勝が言ってた野郎ってお前かよ」 勝の横に腰を下ろした修司はさも不満げに言った。 その隣には皇太の姿があった。 皇太は修司の言葉に小さく頷くだけで、一言も話そうとしない。 ただ、感情の読み取れない眼差しを海に向けるばかりだった。 (無愛想な奴だな) 皇太の顔をちらりと盗み見て、修司は口の中で小さく言った。 二人の間に沈黙が訪れる。 しかし、二人はお互いが隣にいる事になんの違和感も感じていなかった。 勝が竿を引き上げ、歓声を上げた。 竿の先には20センチほどの魚がしきりに身をばたつかせていた。 嬉しそうに振り向く勝に頷いてみせ、皇太は海を見回し右手の海面を指差した。 釣りを始めて一時間。 バケツの中はすでに魚でいっぱいになっていた。 「すげぇな、入れ食いじゃねぇか。お前、釣りが好きなのか?」 修司が感嘆の声を上げる。 皇太は口元だけでうっすらと笑うと、海を見たまま首を横に振った。 「じゃあ、どうしてポイントが判るんだよ」 訝しげな声に、皇太は首を傾げてみせた。 「しかしお前、喋らん奴だな。無愛想にも程があるぜ」 「お前なんかに振りまく愛想はねぇよ」 やっと返った言葉に修司は何故かほっとした。 「こいつ、よくお前になついたな……」 楽しそうに海に向かう勝を見ながら、修司はぽつりと言った。 その言葉に、皇太は目線を修司に移した。 「引っ込み思案でよ、すげぇ人見知りするんだ」 「お前が落ち着きなさすぎるんだ。な?シューチャン」 「……その呼び方すんじゃねぇよ」 修司は一瞬むっとしたようにそっぽを向いたが、すぐに自分の口元に手を当てていまいましそうに続けた。 「それにしても、少しは手加減しろよ。まだ痛ぇぞ」 皇太は冷めた笑みを浮かべると、修司同様、自分の顔に手を伸ばして言った。 「お前が言うな、いきなり殴りやがって。おかげで帰ってから一晩中説教されたぜ」
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