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「あのじいさん、怒ったらおっかねぇからな」
鬼の形相で怒る神主を想像して、修司は声を上げて笑った。
意外だな、と修司は思った。
昨日、学校で皇太を見かけた時、言い表せないような憤りを感じた。
物怖じしない冷めた目。その目は一瞬もそらす事なく自分を見据えていた。
あの時はその眼差しに怒りを覚えて突然の乱闘騒ぎになってしまったが、こうして話をしてみると案外面白い奴かも知れない。
「でも、なんでこんな時期に転校して来たんだよ。もうすぐ夏休みだぜ?大抵、転校生って休み明けに来るもんじゃねぇか」
「意表をついたんだよ。インパクト強いだろ」
「インパクトで転校するなよ」
質問をはぐらかされてしまったが、修司はその答えに思わず笑いながら切り返していた。
ふと、皇太が背後を振り返り、山間に視線を巡らせた。
そして、
「墓地はどこにある?」
余りにも突然な問いかけ。
修司は怪訝に目を細めると、墓地のある方向を指差した。
「墓地なんかに何をしに行くんだ?」
問いかけるが、皇太は何も答えない。
やがて皇太は無言のまま防波堤へと歩き出した。
「おい、歩いて行く気か、かなり遠いぞ?俺の単車、乗っけてってやるぞ」
後ろ姿に声をかける。
しかし皇太は、少しも振り返らずに軽く手を上げるだけだった。
「ホント、無愛想な奴……」
大物を釣り上げた勝が歓声を上げた。
同時に、正午を告げる工場のサイレンが遠い山に跳ね返ってこだました。
「もう昼か……。勝、帰るぞ」
満足そうにバケツを覗き込む勝に声をかけ、修司もまた防波堤に向かって歩き出した。
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