第1章 3ー2

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風の中でうずくまる皇太を見て、志穂はぎくりと体を硬直させた。 強烈な陽の光を反射させて、髪が真っ青に輝いていたのだ。 さらにその髪は、まるで静電気に包まれているようにざわざわと逆立っている。 数秒、頭の中が空白になり、すぐに恐怖が津波のように襲ってきた。 震える足がじりじりと後ずさっていった。 足が思うように動かない。 その時、ふらつく足が背後のゴミ箱を思い切り倒してしまった。 けたたましい音が鳴り響き、皇太が振り向く。 お互いの視線が合い、志穂は愕然と息が止まった。 真っ青な髪。 そして、不気味に底光りする青く染まった目……!! 「しまった……!」 皇太が立ち上がると同時に、志穂はそこから全速力で逃げ出していた。 (なんなの……?!今のはなんなの?!) 恐怖に追い立てられながら、ちらりと振り返る。 どうやら後を追ってくる気配はなさそうだった。 しかし、体はスピードを緩めない。 寺院の角を曲がればもう少しで出口だ。 息を切らして角を曲がった直後、 「きゃっ!!」 志穂は角の向こうにいた何者かに思い切り激突した。 その人の足元が視界の片隅に映り、体がぎくりと強張る。 ゆっくりと顔を上げた志穂の瞳が、目の前に立つ皇太を捕らえた。 しかし、茶色がかった髪。鋭く冷えきった黒い瞳。つい今しがたの青さなど、どこにもない。 「うそよ……どうして……!」 墓地からここまでは一本道だ。 全力で走る自分を追い抜かさない限り、目の前にいる事は有り得ない。 硬直したままの志穂の手首を、皇太が乱暴に掴んだ。 「見たのか……?!」 怒鳴るような声で皇太が言った。 志穂は否定するように首を振った。 しかし、皇太の手には志穂の体の震えが伝わっていた。 さらに怯えきった目が、全てを物語っていた。 皇太の鋭い視線が志穂の目を覗き込む。 「いや……!!」 小さな叫び声と共に、志穂の目に涙が溢れた。 瞬間、皇太は動揺したように体を引くと、戸惑いながらその手を放した。 そして、 「いいか、今見た事、誰にも言うんじゃねぇぞ……!」 脅すような低い声で言う。 堪り兼ねたように、志穂の頬を涙が伝った。 途端に皇太はぎくりと体を強張らせると、慌てて顔を背けてまるで逃げるように墓地の出口へ駆け出して行った。 志穂はしばらくの間その場に立ち尽くしていたが、やがて張り詰めた糸が切れたように座り込んだ。
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