第1章 3ー2

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皇太に捕まれた手首が赤く充血している。 手首をさする視界の片隅に、先ほど皇太が持っていた古びた写真が映っていた。 艶やかな黒髪の女性が、穏やかな微笑みを浮かべている。 (この人、どこかで……) 写真を拾い上げ、記憶を掘り起こす。 そうだ。 母のアルバムで見たのだ。 若い頃の母の写真には、必ずと言っていいほどこの女性の姿があった。 母と父とこの女性と、そしてもう1人の男性。 中学生の時、アルバムを見ていた時に母が言った言葉が志穂の頭に蘇った。 『この女の人はお母さんの大切な友達なの。もう何年も前に亡くなったけど、いずれ彼女の子供がここに戻って来るから、その時は仲良くするのよ?たとえその子に、どんな噂があっても』 「噂……」 母の言葉。 昨日の駅前での女性達の密かな話。 そして今しがた見てしまった皇太の姿。 そして、それらをつなぎあわせた先に見えた、この町の古くからの言い伝え、『蒼き髪の日子』の話。 (まさか、そんなの……有り得ない) 否定しつつもどうしても一本の線につながってしまう。 「たとえその子に、どんな噂があっても……」 改めて母の言葉を繰り返す。 頭が混乱している。 何がどうなっているのかは判らないが、とりあえず今見た事は自分の胸にしまっておいた方がよさそうだ。 写真を見つめるうちに、志穂の心の中にはそんな思いが強く沸き起こっていた。
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