第1章 4ー1

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ざわめく教室の中、志穂は開け放たれた窓にもたれ、外を眺めていた。 眩しい陽射しが降り注ぎ、乾いた微風がグラウンドの土を舞い上がらせる。 校内へ向かう生徒達が、ぞろぞろと歩いていた。 (綿貫くんだわ……) 視界の片隅に皇太を見つけ、志穂はいくぶん緊張したように背筋を伸ばした。 (写真、返さなきゃ) ブレザーの制服のポケットにおさめてある写真に手を伸ばす。 しかし、どうやって渡せばいいだろう。 「おはよ、志穂」 思案する背後から声を掛けられ、振り向くとそこには法子が笑顔で立っていた。 「おはよ。ついに月曜日が来ちゃったわね」 窓の外へ視線を戻し、志穂は皇太の方へ小さく指を差した。 「何もなければいいんだけど……」 同じように外へ目を向けた法子が、皇太の姿を見つけ出して不安そうに言った。 「土曜日は決着ついてないみたいだったから、絶対やらかすわよ」 志穂の言葉に、法子の不安は大きくなった。 遠くから2ストロークのバイクの高い排気音が聞こえて来る。 あれは修司のバイクの音だ。 「修司くんたら、また先生に怒られるわ」 法子の消え入りそうな声を始業のベルが掻き消した。 間を置かず、担任の高橋がドアを開け、クラスメート達はざわめきの中でそれぞれの席に着いていった。 高橋の後ろには、やはり皇太の姿があった。 志穂は戸惑いながらも皇太を見つめた。その視線に気付き、皇太は動揺したように目をそらした。 「夏休みを目前にしていますが、転校生を紹介します」 高橋は一通り簡単に紹介し、皇太の背を軽く押して挨拶を促した。 皇太は目線を床に落としたまま、軽く頭を下げた。 「えぇと、席は……」 教室内を見回した高橋の目線が、窓際の最後列で止まる。 しまった、とでも言いたげな表情がその目元に浮かんだ。 空いている席が2つ。 一番窓際は空席。しかし、その隣は修司の席だ。 席替えをしておくんだった。と、高橋は後悔した。 「仕方ない、とりあえず……」 高橋が言いかけた時、教室のドアが乱暴に開いた。 クラスメート達の視線がドアに集中する。 互いに無言で目を合わせる皇太と修司に、教室内の空気が目に見えて緊張した。 「長岡、ケンカは」 「よう、来たか」 「……おう」 焦りもあらわな高橋の言葉を遮り、2人が口を切る。 ぼそっと短い会話に緊張の空気がほぐれた。 その中で、志穂と法子もほっと胸を撫で下ろしていた。
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