第1章 4ー2

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「法子、修ちゃん見なかった?」 放課後、掃除当番で居残っていた法子に志穂は聞いた。 「少し前に廊下で綿貫くんと話してたみたいだけど。いない?」 即座に返った法子の言葉に周りを見回す。 しかし、2人の姿はどこにもない。 「用があったのになぁ。ごめん、法子。先に帰るね」 志穂は慌てて言い捨てると、小走りに正面玄関に向かった。 用があったのに。 本当に用があるのは皇太の方にだった。 今日一日、志穂は写真を渡すタイミングを伺っていた。 しかし、なかなかそのチャンスが訪れなかったのだ。 それもそのはず。 授業が終わる度に教室に訪れる他のクラスの生徒達。 気がついた事に、その大半が女子生徒だった。 法子曰く、 「今度の転校生、イケメンだって評判になってるみたい」 そうかもしれない。 ちょっと悪びれた風貌。 男らしく整った顔。 少し憂いを含んだ冷めた目。 女子生徒が騒ぐのに充分すぎるほどの要素を持っている。 ならば時間に余裕のある昼休みなら、と思っていたのに、修司ともどもどこかに消えてしまった。 そうこうするうちに、とうとう放課後になってしまったのだ。 玄関に向かう生徒達の間を縫って皇太を探す。 キョロキョロと周りを見回しながら表に出た志穂は、やっとその姿を見つけ出す事ができた。 目の前、数メートル先を、ポケットに両手を突っ込んでだらしなく歩く皇太がいる。 志穂はどう声をかけるか悩みながらその背後についた。 生徒達の話し声。背後のグラウンドで練習に励む野球部員達の声が、ぼんやりと耳に入ってくる。 (……よし) 深呼吸をして皇太の肩に手を伸ばしたその時、 「きゃっ?!」 突如振り返った皇太が、志穂の頭をその胸に抱え込んだ。 「痛……!」 同時に皇太の体からつたわった一瞬の衝撃。そしてうめき声。 何が起きたのか判らず、志穂は皇太に抱えられながら呆然としていた。 「すいません!!大丈夫ですか?!」 慌てふためいた声が近づいてくる。 その声の方へ顔を向けた志穂は、やっと事態を把握した。 右後ろに位置するグラウンドで、バットに打たれて勢いをつけた硬球ボールが、志穂めがけて一直線に飛んできたのだ。 それに当たっていたらどうなっていただろう。 恐ろしい想像が一気に込み上げ、志穂の足はがくがくと震えだした。 「大丈夫じゃねぇよ、バカヤロ……!」 皇太の痛みを耐えるかすれた声に、志穂は我に返った。
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