第1章 4ー3

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皇太が転入してきてから数日が経った。 今、一部の生徒達の間で色々な噂が飛び交っていた。 それはやはり『蒼き髪の日子』の話だった。 そしてそれに重ね合わせるように、皇太が生まれた時の事が持ち上がっていた。 激しい嵐の日に生まれた皇太。 志穂が墓地で見たあの姿、真っ青な髪と底光りする青い目を輝かせたあの姿で。 皇太の母親は、出産を終えると同時に息を引き取ったそうだ。それも、ミイラのように痩せ衰えて……。 彼女は亡くなる直前、謎の言葉を残している。 『私の血を……全ての力を……』 意味が判る者などいなかった。 ただ、体中の水分が吸い取られたような有り様の死であった事だけが、町の人達の記憶の中にあった。 全てが言い伝えと同じだった。 言い伝えの日子は、突然の嵐の中で生まれた。 そう。妖しく揺れ動く真っ青な髪と不気味に底光りする青い目を持って。 この世に生を受けた日子は、生まれ出る直前に母親の生気を全て吸いとった。 当然、母親はミイラのように痩せこけてこの世を去った。 そして日子はこの地を離れ、『聖なる狭間』で動乱の時を待つ。 やがて時が満ちた頃、日子はさらなる力の源を得るため、この地に舞い戻ってくるというのだ。 こうして『蒼き髪の日子』と皇太の出生を照らし合わせてみると、全ての出来事が一致している。 本当にごく一部ではあるが、その生徒達の皇太を見る目は、転校生に対する興味の眼差しから疑惑と恐怖の色に変わっていた。 朝のホームルームが始まる前、教室には異様な空気が立ち込めていた。 普段と変わらずに話をするクラスメート達。 しかし、その中にある、奇妙な静けさと緊張感。 ざわめきと静けさが、微妙なバランスを保っていた。 あの時と同じだ。 初めて皇太を見かけた時の、駅前のあの雰囲気と。 法子と昨夜のテレビドラマの話に花を咲かせていた志穂は、頭の片隅で思い出していた。 「だって、言い伝えと同じだろ。母親を殺したって……」 ざわめきの中に聞こえてきた男子生徒の密かな声に、志穂は耳を澄ました。 (あの2人だわ) どうやら教室のドアの側にいる2人のようだ。 志穂の耳に届く、余りにも中傷的な言葉。 怒りと苛立ちが次第に志穂の中で膨らんでいった。 彼らの話し声に気づいた法子と顔を見合せ、志穂はちらりと後ろを窺った。 皇太はぼんやりと頬杖をつき、窓から見える遠くの景色を眺めている。
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