第1章 4ー3

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しかし、彼らの声が届いているのだろう。眩しい陽の光に細めた目を、時折苛立たしげにひそめていた。 その隣では、やはり修司が不機嫌な面持ちで2人を見据えていた。 彼らの話はどこまでも続く。 やがて修司は組んでいた腕をほどくと、怒りをあらわに指を鳴らし始めた。 そして彼らの話が『蒼き髪の日子』にたどり着いたその時、 「てめぇら、いい加減に」 「ほんっと下らない噂よね」 修司が立ち上がると同時に、志穂が声を上げた。 ざわめく教室内はこの一瞬で静寂し、苛立ちを遮られた修司は呆気に取られたように立ち尽くしていた。 「現実と作り話の区別もつかないなんて、情けないわよね」 「お、おい、志穂」 「何が『蒼き髪の日子』よ。髪と目が青かったとか、生まれた時に母親を殺したとか」 「志穂、俺がな」 「現実として有り得ないのが判らないのかしら。誰の髪と目が青いっていうの?」 「俺が言おうと思っ」 「誰も見てないわよね?それに」 勢い付いて喋る志穂の横から修司が口を挟む。 しかし志穂は、それをうるさそうに無視しながら続けた。 「生まれた時に母親を殺した?どうやって殺したっていうのよ。生まれてすぐに母親を亡くして……ちょっとうるさいわね、修ちゃん」 途中、背後から腕を引かれ、志穂は焦れたように振り返った。 が、そこにいたのは皇太だった。 皇太は冷めた目で志穂を見つめ、やめろと言わんばかりに眉をひそめる。 志穂は頬を膨らませてその手を振り払った。 「母親を亡くして一番つらい思いをしているのは本人だわ。それを下らない言い伝えと結びつけるなんて、どうかしてるわよ」 いい終えた直後、始業のベルが鳴り響いた。 間を置かずに高橋がドアを開け、話をしていた2人の男子生徒はきまずそうに志穂から目をそらしていた。
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