~美への憎悪と憧れ~

38/62
前へ
/371ページ
次へ
 そこにあるのは己が愛した女とはまるで別の何かだ。  綺麗だねと愛でたさらさらした黒髪は、乱雑に抜かれ赤く滲んだ肌が露出していた。  猫のように可愛い両耳は、まるで側頭部に接着されたようにひしゃげていた。  愛らしい瞳は、瘤のように膨れ上がった瞼で見ることも叶わなかった。  軽くつまんで遊んだ小鼻は潰れ、曲がり、血の塊が鼻下にこびり付いている。  始めて重ねたその唇も所々切れ、笑顔と共に垣間見えた整った白い歯は、ほぼ抜け落ちまるで年老いた老婆のようだ。    
/371ページ

最初のコメントを投稿しよう!

804人が本棚に入れています
本棚に追加