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「てめぇ離せこら!」
尖った瞳で叫ぶが、泰子は気にも止めず類人猿に近い掌で松木の右手首を締め上げる。
まるで万力のように食い込むその様に、思わず松木は顔を歪め短く呻く。
「は、離せ――」
片目を瞑り泰子を見上げる松木。
ふと泰子の表情が消えた。全くの無表情のまま――次の瞬間。
絞ったのだ――右手で手首を掴んだまま左の手で松来の掌を掴み、雑巾でも絞るかのようにぼきぼきと力を込めて――
「ぐわぁああぁああぁああっぁ!」
松木の悲鳴が教室内に木霊する。
だが泰子は容赦などしない。
松木の手首を一回転させ壊れたまま更に逆に捻り、終いには五本の指全てを有り得ない方向にへし折ったのだ。
その瞬間、野球部のエースピッチャーとして君臨し推薦入学まで決まっていた松木の三年間の積み重ねは、あっけなく砕け散った。
痛みのあまり情けないぐらいに泣き叫び教室の床を転げまわる松木の姿を見下ろす泰子はとても満ち足りた表情をしていた――
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