476人が本棚に入れています
本棚に追加
花弁歴982年………“サディア(第3番目の大陸)”。
この大陸が擁する魔法都市の一つ“ティリス”は巨大な結界に覆われた町だ。
町並みは美しく、民も活気に溢れている。
この町の強固な結界は絶対に破れない。
ティリスの人々はそう信じていた。
ある一件までは。
結界に覆われている町に突如として正体不明の生物が現れ、暴走したのだ。
町の警備隊も役に立たない。
結界の力を過信しすぎた結果である。
この事件は思わぬ形で終結を迎えた。
1人の男が4人の仲間と共に謎の生物を迎撃し、打ち勝ったのだ。
結果、ケガ人や死人は最低限で済んだ。
青年に対して、政府は疑問や疑惑を持つが詳細は不明。
最終的には
“魔獣の暴走”
で片付けられた。
箝口令が発令され、この事件の全てはうやむやになる。
その、約40年後。
ティリスには事件の傷痕はかけらも見えず、元の美しい町並みを取り戻していた。
穏やかなある日、「ティリス中央魔法・魔術学校」。
そこではいつも通りの昼休みが始まっていた。
昼食の確保に走る者、読書に没頭する者、何故か踊る者。
生徒達が様々な姿を見せるこの時間に、一人だけ座って窓の外を眺める少年がいた。
やや長く、ツンツンした金の髪、死んだ魚のような碧眼。
何をするでもなく窓に寄り掛かり、昼食も摂らずにぼーっとしている。
……何を考えているのか、何も考えていないのか……。
真意が見えない深い瞳に光は無く、代わりに吸い込まれそうな暗闇を湛えている。
制服である白ブレザーの下の肌には、無数の内出血や打撲の跡がある。
彼は、つい先程まで屋上にてサンドバッグにされていた。
痛みを感じても、表情にはそれは出ない。
彼の心は壊れていて、生きるために必要最低限なことだけを考え、行動する。
その『最低限』の中に
『悔しがる』
『怖がる』
『痛そうな顔をする』
は含まれない。
最初のコメントを投稿しよう!