第1章

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. いつも通り洗面台で顔を洗って寝癖を直し、さっぱりしたところで朝食を作るべくキッチンへと向かう。 「やぁ、おはようさん」 しかし朝はまだ早いというのにキッチンにはすでに先客がおり、少々遅れて現れたオレにいつも通り挨拶を投げかけてきた。 「……おはよう、爺さん」 それに対してオレも日課である挨拶を返し、先客である爺さんの隣に立って朝食の準備を始める。 「どうしたシエル? 今日は何時もより少し遅かったじゃないか」 「たまたまだよ、たまたま。 それよりも爺さんはこんなところでゆっくりしていて大丈夫なのか? 今日は街で会合があるんだろう?」 昨夜のうちに準備しておいた材料を手早く調理しつつ、同じく朝食を作っている爺さんからの問いに答える。 「儂の方はまだまだ余裕たっぷりだから大丈夫じゃ」 「ふぅん、それならいいや」 内心上手く話を逸らせた事を喜びながらも、調理の手は一切緩めない。 毎朝毎朝この孤児院に住む人数分の食事を作らないといけないため、話をする度にいちいち手を止めていては到底間に合わないからである。 最近はオレもだいぶ慣れてきたけど最初の頃はかなり苦労したんだよな…… あの頃は隣で平然と料理を作り上げていく爺さんの姿を見て、流石この孤児院を婆さんと二人で支えているだけはあるなと感心していたもんだ。 ……あれから約十年、未だに楽をさせてやれないのが非常に悔しいところである。 「おい、シエル。 あとは儂がやるからお前は他の子達を起こしてくるんじゃ」 「ん、了解」 そうこうしているうちに朝食の準備はほとんど終わり、オレは爺さんの指示通り次の仕事であるわんぱく坊主どもを起こしに行く。 ……今日こそはすんなり起きてくれよ……頼むから……
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