慶応4年5月…

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私は怖い… 大切なものを失うことが 大切なものからはなれてしまうことが 今の私には何もなくて 必要とされる要素だってない… 咳をして、血を吐いて、高熱を出して、ただ床に就く… 先生に会いたい でも、今の私には先生に会う権利すらない。 私の病を移してしまう。 先生から文を頂いたのは確か二ヶ月程前のこと。 先生は今、どちらにいらっしゃるのでしょうか…? 先生…会いたいです 手のひらを太陽の光に透かしてみれば血管が見える。 生きているという実感が持てる。 この命はいつ途切れるときがくるだろう…? 鳥のさえずりが聞こえる穏やかな春の日。 私は筆を握った。 動かねば 闇にへだつや 花と水 私は怖い。 自分の居場所を失うことが… 動くことができないせいで闇に飲まれてしまいそうで… 貴方は私にとって花 どうかいつまでも清らかに、美しく、温かく… 会えなくてもいいです。 ただ… 私が先生を想っているように、先生も少しは私を想ってくれていることを願います。 昔の記憶に思いを馳せる… 5月下旬、私が最後に見た空はかつて日野の地にてみんなで語り合った日の空にそっくりでした…
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