ignis《種火》

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ここは魔界の一国。 人間と血みどろの戦争を繰り返し、疲弊した国だ。 そして長引く戦争によって、人間の勇者という駒にチェックをかけられていた。 立派な城の廊下をたった一人の青年が駆ける。 黒色のショートヘアが勢いに揺れ、身に着ける炎のような赤いマントが風に煽られる。 銀の鎧は返り血に濡れ、盾には歴戦の傷が刻み込まれ、戦いを生き抜いてきた猛者である事を証明していた。 勇ましくも端正な顔立ちは魔王との闘争の意欲に燃え、人間に勝利をもたらす為に鋼の剣を強く握る。 廊下の青い絨毯をブーツに付着した泥が汚し、照明が勇者の影を生む。そしてもう一つ、待ち受ける様に相対する影があった。 本拠へ進撃する勇者にたった一人、黒い鎧を身に着けた男が立ち塞がる。 「勇者オルフェルだな?」 敵意の視線を向けるそれの影を射抜くように、冷たい声が勇者の疾駆する足を止めた。 西洋風ではなく、何処と無く東洋風な廊下を照らす黄褐色の光の下で勇者は腹の底より吐き出す。 「ならばどうする!?」 威嚇。 しかし黒い鎧の男は見事な金髪の長い髪をかきあげ、優雅さを演じつつ涼しそうに応じた。 「切り捨てて、我が礎とする」 そう吐いて黒革の手袋を嵌めた手を伸ばし、豪華な装飾が施された腰のサーベルを引き抜いた。
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