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拳と拳がゼロ距離で交わる。
もう結果は分かっている。
我が身が炎で朽ち果て、崩れ去ろうとも、哲学の遺伝子を遺す事こそがレックスと歩む者の望む道。勝敗など最初からわかっていた。
AーRexの腕はトーチの桁外れの力によってちぎれ、体は重力に逆らって飛んでゆく。
意識が、体を離れていった。
「――――」
視界を包む煌めく七色の炎は天を裂いて現れた光。
間近に在りすぎて気付かなかった麗しき景色。
それが今、目の前にある。
もうすぐ自分は死んでしまうのだろう。体の感覚がそれを教えてくれる。
そんな地に落ちたAーRexを見届ける為に、トーチがゆっくりと歩み寄る。
「まさか……いかなる魔族を薙ぎ倒した私が敗北するとはな……。因果応報か。」
「私は慎重に事を進めた……一撃でも受けていれば投げ出される……貴方の戦略は悪くないが、相手が悪かっただけだ。」
静かに燃える赤い炎のような瞳でAーRexに答えるトーチ。
「レックスの威力ある攻撃に対して上手く立ち回って動きを封じる……悔しいものだな。」
答を知ったAーRexはひとりでに納得し、闘争心を海に棄てて朽ちる。悪くない最期の闘争だった。
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