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トーチが強制的に操るピストルの銃口をこの場の最高責任者へ向ける。元の持ち主は拒んでいるようだが、強く握りしめる手は岩のように動かない。
そして別れの言葉を、その口で紡ぐ。
「日を拒む暗色の炎が、貴方の瞳に映る手向けの光となるでしょう」
凍る吐息の間に、僅かな時間。
数多のピストルが狂言を吐く亡霊を狙い、刹那の赤い瞬きを解き放とうと指を引く刹那、火炎の飛礫がトーチから飛散。
彼等は、引き金を引いてしまったのだ。
自らの運命を決定する弾丸の引き金を。
瞬間、雷光の如き光と、雷鳴の如き砲撃音が限定された空間の中で疾走した。
クルーは見た。鮮烈の弾けた炎。形容するなら赤い死神。
実体の無い音の矢が体を通り抜ける。
少ない者は見た。亡霊から出てきた高速の粒がピストルの銃口に入り込んだのを。その刹那にピストルは爆発した。
そして、一つの弾丸は放たれた。
それは摩擦によって輝く隕石のように巨大で暗い光を放つ一瞬の閃き。
そしてそれは、たった一人の人間に進撃した。
最期の美を飾るために。
そのたった一人の人間は誰にも気付かれず、見惚れた顔をしていた。
終幕
ガラスを突き破り、暗色の飛び石は空の彼方に消えてゆく。
トーチの敵の武器を奪い、火炎の力を纏わせて返す技『トロメラの火』。
傭兵を続けて身に付けた亡霊の短所、物理攻撃の速度の遅さを埋める暗色の美学。
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