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昔、昔、ある漁村で一人の若者が行方知れずになった。
村人は総出で、若者の行方を捜した。
若者が最後に目撃されたのは、海岸だった。もしかしたら、若者は波にさらわれたのかもしれない。男達は小さな船で沖合いに出て、女達は周辺の岩場をくまなく捜した。子供やお年寄りだって、心当たりがある場所は捜し続けた。若者は大事な村人であり仲間だ。心配するのが当たり前であった。
男達は昼夜を問わず、仕事の合間を見ては捜し、女達は若者の無事を祈って、毎日のように神頼みをしていた。
村人でもこの慌てようだ。若者の両親に至っても、その心労は計り知れない。若者が行方知れずになってから、父は仕事をせずに、沖に出ては声が嗄(か)れるまで息子の名前を叫び続けていた。母はショックのあまり、食事も喉を通さなくなりやつれ、寝込んでしまう始末。
村人は若者の両親のことを心配した。だが、どうやって慰めればいいのか。その方法が思いつかなかった。ただ、同情するしかない。
そして、若者が行方知れずになってから一月も経つと、両親は二人とも亡くなってしまった。
「こんなになるまで、親を心配させるとは・・・!」
亡くなった若者の両親。その末路に、怒りの声を発したのは若者の親友だった。親友でるからこそ、自分の親を心配させる彼に怒りを覚えると同時に、ますます、心配になった。
親友はなんとしても、若者を捜し出してやろうと思った。見つけてやって、無事だったら殴ってやろうと思っていた。それが、若者の両親の代わりにしてあげられる唯一のことだと思っていた。
親友は若者の両親に取って代わって、より一層、若者を捜し続けた。漁をしながらも、網に若者の手がかりでも引っ掛からないかと期待しては、魚ばかりに落胆するのだ。それでも、望みは捨てない。絶対に若者の痕跡を見つけてやろうという気が親友を突き動かしていた。
雨の日も、風の日も、雪の日も・・・。親友は必死になって、若者を捜し続けた。
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