トラ松先輩の不満

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 アニマルカンパニーに入社してから三ヶ月が過ぎた。  ようやく仕事にも慣れ、余裕も出てきた。  しかし、改めて思う。  この会社は一体何の会社なのだろうか。どうやって成り立っているのか、いまいち実態が掴めない。謎だらけだ。  入社当初は早く仕事を覚えようと無我夢中だったので、そんなことは二の次――気にもしなかった。ところが、仕事に余裕が出て、冷静になってみるとおかしなところがいくつもあった。もちろんこの会社の実態についても気になるが、それよりも職場で働いている人達の方が気になった。  職場の人達はいい人ばかりだ。上司も先輩も丁寧に仕事を教えてくれたし、不満に思うところはない。……ないのだが、みな変わっている。変人というか、そもそも人と呼んでいいのかも疑問だった。  というのも、僕の隣の席に座り、パソコンを前にキーボードを叩く先輩は、ライオンそのものだ。  トラ松先輩。  僕がこのアニマルカンパニーに入社してから、仕事の面でとてもお世話になっている先輩だ。立派な鬣(たてがみ)に、毛むくじゃらで獰猛な顔立ち。着ている紺のスーツは今にもはち切れてしまいそうだ。  鋭い爪でキーボードを叩く姿は器用を越えて、一種の芸と言ってもいい。たまに大きな肉球が邪魔をして、間違えた場所を押してしまうようで、その度に鋭い牙を剥き出しにして、低い声で唸っている。  隣の席にいる僕は、食い殺されるのではないかと、毎回冷や汗をかいている。  けれども見た目に反して、トラ松先輩は気さくで優しい人だ。昨日も食事に誘ってもらい、ご馳走になったばかりだ。  何度か一緒に食事をしているが、そのほとんどが焼肉だ。  もちろん昨日も焼肉だった。
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