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携帯電話の微振動に恐怖心を抱いたのは生まれて初めてだ。これに出たら、よくない事が起きる。強い確信を持ってそう感じた。
しかし、出なければいけない。出ない事は許されない、俺の人生の中で避けてはいけない事柄、森澤ユキからの着信を示す携帯電話の画面を見ながら、そんな風に思った。
通話ボタンを押し、電話機を耳に当てる。
「もし、もしもし」と思ったより自然に声を発する事が出来て、俺は少し安心する。
やや間があって、ターチン、と電話機の向こうから、ユキちゃんのソプラノボイスが聴こえてきた。
「久しぶりやなぁ、1ヶ月ぶりくらいか」と俺は意識して、大きく、明るく声を出す。その後、冗談を言おうとした、が、俺の言葉が止まる。
ユキちゃんは
「あのさぁ、ターチン」
と言った後、
「もう、連絡してこんといて」と続けた。
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