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「相当頭、イカれとる」
平原が苦々しく、言う。
「誰がイカれとんじゃ!」
俺は反射的に立ち上がった。切りカブ形の椅子が後ろに倒れる。
「給水所のドリンクが全部コーンポタージュ、最高のボケやんけ!」
「男トイレで待ち伏せって、正気の沙汰やない」
あぁ、そっちね。平原は上ノ段姉妹の話をしているのだ。俺の大喜利解答になんて微塵も関心を示して来ない。俺は切りカブ椅子を起こし、座り直す。倒れた(自分で倒した)椅子を起こすという作業は結構な虚しさを伴う、と初めて知った。
「早い段階でその姉妹が藤川の事を諦めるように、お前も協力して徹底的に無視しろ。ええな。長引いたら、厄介になる。こういう問題は」
「酔っとん」俺はぼんやりした視界に平原を映す。
「珍しく口数多いやん」
「未来が無くなってもええんか!」
平原が大声を出し、木のテーブルを強く叩いた。店内の喧騒が止み、俺と平原に視線が集まっているのを感じた。
平原は鼻息荒く、無言で俺を睨む。細い目がいつもより開いている。平原の剥き出しの感情を見たのは久しぶり(喜怒哀楽、(怒)は初見)だ、と思った。ふいに、俺は平原と初めて会った日を回想した。
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