第8章~もう連絡してこんといて……

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 初めて会った去年の夏、平原は笑っていた。俺と藤川の自然で天然な会話に腹を抱えて。そして漫才を見る時はそうしなければいけない、というルールがあるかのように、真顔で一切笑わなかった。  俺との付き合いが一年近くなった今現在、平原の無感情ぶりはより拍車が、かかった。平原は常に冷静で居なければ、と自分自身に強く課しているのだろう。でんでんむしの漫才の細部の更に奥まで見落とさない為に。平原の無感情、無感動、無表情は専属作家としての覚悟の現れ、俺と藤川への愛情だと俺は受け止めている。  そんな平原が、机を叩き、感情を剥き出しにしたのだ。俺は驚かずにはいられない。  俺と平原の間に沈黙が続く。俺は息苦しくなり、自分は知らぬ間に呼吸を止めていたのだと気づいた。 「東京に行った時に聞いた話や」 先に口を開いたのは平原だった。平原は冷静な口調に戻っている。 「ある芸人が、ファンの女に手を出して、そのまま、やり捨てしたんや」 「芸人がタレをかき捨てしたんか」 最近覚えた芸人用語を使いたくてしょうがない俺。ちなみに教えてくれたのは宮本兄さんだ。 「酷い話や。タレをかき捨てするなんて」
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