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奈津美が笑顔から一変、寂しげな表情になって龍を見る。あぁ、と無神経な俺は察しをつけた。
おそらく奈津美は龍の事が好きなのだ。しかし、龍のリアクションは良好とは言い難いもので、奈津美は悩んでいる。そんな所だろう。
ウィー、ゲプッと酔っぱらいの鳴き声を上げた後、龍は一言も断らず、俺と平原のテーブル、俺の左隣に着席した。俺は平原を見る。平原は表情を変える事なく、龍を眺めている。
奈津美が「ごめんね、ターチン」と言ってから、少し迷い、平原に一礼してから、平原の隣、龍の対面に腰を降ろした。
「芸人?」
龍が言って、平原に右手親指を向ける。
「自分、芸人なん?」
龍の厚かましさは酔っているからこそ出来る芸当で、普段の龍は結構おとなしかったりする。酒とは恐ろしい。人を豹変させる。
俺は平原の素性について、説明した。
「へぇー」と奈津美が息を吐く。
「お笑いにも作家さんが居るんやぁ。私、知らんかった。平原君、うちのターチンをよろしくお願いします、なんて」
おどけた様子で平原に頭を下げる奈津美は可愛い。平原。もうちょっとリアクションせえよ。無言でソルティー・ドッグのソルトを嘗める平原を見ながら、俺はそう思った。
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