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「おう、せや、お前連絡あったか?」
と龍が俺に向いて、訊いてきた。
「森澤、ユキ、意味がわからんぞ」
「え、ユキちゃん」
俺の声がみっともなく裏返る。どんなに深酒しても、その名を聞けば、素面に戻ってしまう。森澤ユキは俺が中学時代から、想いを寄せ、恋焦がれまくっている女性なのだ。ちなみに去年辺りから、何度か二人で食事をしたり、でんでんむしの初舞台を『paceこしもと』に観に来てくれたり良い感じだ。もうじき彼氏彼女の関係になる。多分。
「ちょっと龍君」
奈津美が言って、眉をひそめる。そういや奈津美はユキちゃんの事が嫌いだった。ソリが合わないらしい。
「森澤ユキなんか、どうでもええけど、ターチンが……動揺するやんか」
「え、俺」
俺は自分の鼻に人差し指を向ける。
「ほら、舞台とかも近いんやろうし、漫才師はテンションが大切やし」
奈津美が言い難そうに言う。意味がわからなかった。
俺はハッと思い当たり、ジーパンのサイドポケットから携帯電話を取り出した。バーに来る前、ネタ合わせしていた時から、ずっとマナーモードにしていた。
携帯電話の背、不在着信の緑色のランプが点いている。
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