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「なんや、これ」
藤川が斜め下に黒目を向け、呟く。嘆くに近いかもしれない。
「何しとんねん……俺ら」
空き地を照らす、頼りない街路灯が藤川の目の下、色濃い隈を映し出す。上ノ段姉妹の電話攻撃は日夜激しさを増しているようだ。藤川の疲弊した様子、漫才時の声の飛び方が上ノ段姉妹のストーカー行為のエスカレートを物語っている。
俺は後ろに手をつき、両足を伸ばし、大股開きの姿勢になった。「ぐぉんっ!」と意味不明の声が口から出る。
浅尾幹太。龍が最近知ったらしく、昨日教えてくれた。18歳。束縛、独占欲、共に激しい。森澤ユキと同じ大学に通う、ユキちゃんの恋人らしい。
「だぁー、もう!」
俺は雑草をむしり、下に投げつける。
「なんやねん! ホンマよっ!」
何も考えさすな。俺に。明日は舞台や。大切な。集中させろ。漫才に。雑音いらん。持ってくんな。
藤川の携帯の着メロが鳴る。気が抜けるようなおちらけた音。藤川が顔をしかめている。上ノ段の姉だ、と俺は察した。
「お前やぁ、ホンマに不注意やよなぁ」
俺は八つ当たり気味に藤川に言った。
「簡単に連絡先教えて、そんなんで俺に迷惑かけんなよ。ホンマにお前は軽率過ぎや。信じられんわ。アホじゃ。お前は」
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