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「お前に」
藤川が絞り出すように言う。
「お前に何の迷惑がかかっとんねん」
「かかっとぉやんけ!」
俺は被せ気味に言ってから、笑った。
「ツッコミのキレ悪いし、このまま明日の舞台立ったら、お前得意のネタトバシやりそうで、怖いわ」
「せえへん! ネタ合わせ散々したし、セリフ覚えとぉし」
「わかるかい、そんな事。養成所時代からお前はネタトバすんだけはうまかったからな」
やり場の無い怒りを藤川にぶつけまくっている。今の俺は、やな奴だ。自己嫌悪になるくらい。ユキちゃんのせいだ。ユキちゃんのせいにしてしまった。またまた自己嫌悪。
「もぉ、帰ろ」と藤川が言って、立ち上がろうとする。足が長いから、地べたから立ち上がるのは不自由そうに見える。
「お前急激に苛立っとぉみたいやし、俺に八つ当たりばっかりや。今日は実りある練習なんかできひん」
「なんやねん!」俺は喚く。冷静を装った藤川の物言いに腹が立った。
「なんや、俺のせいや言いたいんか。好きな女にフラれて心乱す俺が悪いんか、コラ」
「そんな事は言うてない」
藤川はズボンに着いた砂を払いながら、言う。
「ただお前は頭を冷却する時間が必要やと思ってな」
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