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翌日。良く晴れた空。3月の第2土曜日午前7時。
「ほな、やろかい」
藤川が練習場の主たる『横たわる大木』の前で屈伸運動をしている。
「おう」と、俺は不貞腐れた風を装い、藤川の左隣に立った。喧嘩になった昨夜。一夜明けた本日の早朝。俺は藤川に電話を掛けた。もしもしと声を出し、二、三拍置いてから、言った。「ネタの通し稽古やろう」と。
昨夜藤川が去り際に言ったセリフ。実はめちゃくちゃ嬉しかった。心の芯が熱された鉄芯と化した。俺を信頼してくれているんだなぁ。自身も問題無しというわけではない。にも関わらず藤川は切り替え、割り切り、今日の『ウィナーズサークル』に集中しようとしている。
藤川め……人間的にめちゃめちゃ成長しやがった。器のデカさを感じさせる。
それに比べて俺はどうだ。いつまでもウジウジとし、挙げ句の果てには藤川に八つ当たり。目も当てられない。最悪だ。そら、フラれるわ。
「俺が朝お前に連絡したんは、ネタ通しといた方がええと思ったから、電話しただけで」
つまらないプライドを捨てきれない俺。つまらないプライドを五百年来の家宝のように抱え込んで離さない。
「だから、その……」
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