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「はいどーも、でんでんむしです」
藤川が腹に力を込めて叫べば自然と漫才が始まる。1秒前まで意地を張り、つまらない照れ隠しの言葉を藤川に言おうとしていたのをすっかり忘れてしまったかのように。漫才マジックだ。
「こないだコンビニの前に動物が捨てられててな、可哀想やから、俺拾ってあげてん」
自然とボケっぽい惚けた口調になっている俺は、やっぱり芸人だなぁ。
「猫?」と藤川が訊ねる。
「違う」俺は首を横に振った。
「じゃあ犬?」
「違うねん」
「一体何を拾ってん?」
「ヤンキー」
「ちょー待ておい!」
藤川が左手の甲を俺の胸に当てた。本日の漫才、手応えあり。大爆笑に包まれるpaceこしもとの客席のイメージがハッキリと浮かんだ。
「今日、行く前に一応、行ったら」
6回目の通し稽古が終わった時、藤川が言った。
「どこに?」俺は横たわる大木に腰掛け、藤川を見上げる。
藤川が俺の右隣に腰を降ろした。
「森澤ユキんとこ」
「はぁ?」俺は目を剥く。
「何を言うとんねん! 連絡してこんといてって言われてんぞ。きっと俺が付きまとったら迷惑なるってや。ほとんどストーカーやん。第一、何しにいくねん」
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