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「お前、全然納得してへんやろ」
藤川が頭痛薬のCMに出れるくらいの優しさ溢れる微笑みを浮かべた。「だから、迷惑承知で会いに行って確かめたらええやん。連絡してこんといて、の真意」
「せやけど……」俺は恥ずかしながら、ビビっている。今ならリトルトントンの田辺清正とタメを張れるくらいのビビリッぷりだ。
「すっきりした方がええって」
藤川が言いながら、顎を引く。
「その方が、漫才にも好影響や。絶対」
「わかるけど」煮え切らない俺。
「持ってるやろ」
藤川が俺のジーパンのサイドポケットを指差した。
「チケットや。森澤ユキに渡す予定やった今夜のライブのチケット。渡しに行きたいけど、行く勇気が湧かない。煮え切らん気持ちのまま、ずっと持ち歩いてんねやろ」
俺は息を吐き、右のサイドポケットをまさぐる。長方形のチケットを2枚、取り出した。
「お前、俺の事は何でもお見通しになってきてんな」
「顔見たら、だいたいわかる」
藤川は得意げに口を開く。
「前田の友達歴15年、相方歴1年やもん」
俺は気恥ずかしさと嬉しさがない交ぜになった気持ちで腰を上げ、言った。
「とりあえず、漫才の通し稽古やろか」と。
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