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「まず」と藤川が右手人差し指を立てる。
「一番最初お前に電話が掛かってきた時、森澤ユキの声はどんな感じやった?」
俺は暫し、沈黙。一昨日の夜、ショットバー『poco』で森澤ユキから電話が掛かってきた瞬間を思い出す。あまり進んで掘り起こしたくはない記憶だが。
「ちょっと、声が震えてたような」
「せやろ」藤川は俺の方に体を向け、進行方向に背中を向け、歩く。
「もう連絡してこんといて、って自分の意志で言ったんやなくて、誰かに言わされてる、とは考えられんやろか」
「そう言えば」そんな気がしなくもない。
「龍の情報によれば、束縛がキツイ男なんやろ。森澤ユキの彼氏」
藤川は身振り手振りを大きく喋り続ける。我が相方はミュージカルスターでも目指しているのか。
「そんな男と一緒に居って、女が安らげると思うか」
藤川は言って、力強く左の拳を振り上げる。
「あ」と俺は思わず声を出す。藤川の振り上げた拳が、後ろから来た通行人のおっさんの顔面にめり込んのだ。変な歩き方、するからや。
鼻を押さえてうずくまるおっさんの指の間から血が溢れる。
「すんません、すんません」
藤川は慌てて屈み、謝る。
その様子を見ながら俺は、「天然、炸裂」と呟いた。
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