第3章~運次第! 赤いボールと緑のボール

14/14
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
 聞き覚えのある声に、俺はそちらを見た。長い腕が天高く突き上げられている。その手には赤いボールが握られていた。 「あいつ……」俺は呟いて、安堵の気持ちから、その場に膝を突きそうになった。 「えー、では」男スタッフが言う。 「でんでんむしさん、2週目です」  赤いボールを引いたのは、間違いない。今、顔が見えた。藤川だ。 「藤川ー」俺は前からこちらに戻ってくる藤川に駆け寄る。 「おぉ前田」藤川が左掌を俺に向けて挙げている。俺達は思いっきりハイタッチを交わした。 「お前やるやんけ」俺は興奮が治まらない。 「よく無事やったな。お前の事やから、人波で溺れて、死んだかと思っとったわ」  藤川は鼻下を擦る。 「ちょっとビビったけど、なんとか踏ん張った」 「なんにせよ、よくやった! お前は偉い」 「今頃、気づいたか」藤川が胸を張る。 「あのー、すいません」と、男スタッフがこちらに走ってくる。俺達は会話を止めて、男スタッフを見た。男スタッフは藤川の右手を指差している。 「ボール。返して下さい」  藤川の右手には赤いボールが握られたままだった。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!