第1章~2000年2月。『paceこしもと』から、こんにちわ。

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 クレープトリオだけではない。『paceこしもと』と『なんばゴールデン風月』の間を通る、幅広の歩行者専用道路からも視線を感じる。俺達から見て左側『HAHAHA越本ビル』一階の大型書店『春九堂』の自動扉前からも。聴覚を研ぎ澄まし、俺と藤川の会話に傍耳を立てている。そんな感じだ。  そう。今、ここには、お笑いマニアが集っている。そして、今日はオーディションイベント『ウィナーズサークル』のエントリー日。若手芸人がこの場所に数多く集結している事をお笑いマニア達は知っているのだろう。  きっと値踏みしているのだ。日陰の奥に転がる原石の価値を。知り合いの36歳のお笑いマニア、英子さんが以前言っていた。  売れて、会社の商品になってしまった芸人よりも、陰日向でひっそりと小さな光を放っているような、そんな芸人を、真のお笑いマニアは追いかけたくなるものだ、と。 「痛い痛い」と、藤川が顔をしかめている。 「なんか後頭部と背中が、めっちゃ痛い」  中々鋭いぞ。藤川。俺は内心で、言った。
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