キリコさんの噂

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今年も猛威を振るった夏は終わりを告げ、待ちわびた涼しい風が街を吹き抜けるようになったころ、俺の所属するオカルト部の部長である先輩からある話を聞いた。 「今回のネタはすごいぞ!」 と、顔を真っ赤にするほど熱弁を振るった先輩だったが、その顔の方が印象に残っていたと言うのは、余計だろう。 先輩から聞いた話は『キリコさん』いわゆる都市伝説というやつだ。 最近生まれたばかりの都市伝説らしいのだが、どういうわけだか話の拡散が今までのものとはケタ違いに早く、気がついたら周知の都市伝説に早変わりしていた、とのこと。 気になるその内容はというと、「現場に行ってからのお楽しみさ」と場所と時刻以外は何も教えてくれなかった。 オカルト部には、部長の命令および研究、探索には必ず付き従う、という二十年の歴史が持つ決まり事がある。つまり先輩が行くと言えば、その後輩たちはそれについて行かなければならないのである。緩そうに見えても、実はかなりガッチリとした部なのだ。 とは言っても、現時点でのオカルト部の部員数はたったの四人。俺と先輩以外は皆幽霊部員である。三、四年ほど前は部員十七名という栄華を誇ったらしいが、それも今ではただの伝説となっている。 先輩には絶対服従という決まり事を律儀に守る俺と、今時珍しく熱心にオカルト研究へ勤しむ先輩。なかなかユニークな組み合わせだと自分でも思っている。 だが、さすがに振り回される身にもなってもらいたい。場合によっては「お楽しみ」どころではなくなるかもしれないというのに、まったく呆れた先輩である。
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