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プーチンは今までにその犠牲となってきた人々を思い、顔を曇らせた。 泣きそうなその顔にコマネチが何か声を掛けようとすると、自分の顔に影がかかり、何事かと顔を上げる。 すると、柔らかく微笑んだウェイターが小さな花束を持ってそこへ立っていた。 ウェイターは桜色の長髪の毛を後ろで束ねていた。 その美しさは、髪だけではなく、顔立ちも、立ち居振る舞いも、その存在全てが造形物のようで流石のコマネチも見惚れてしまうくらいだった。 「こちら、当店をご利用頂いた女性の方へのサービスです。よろしければどうぞ。」 そう言ってコマネチに花を渡すと、ウェイターはさっさとキッチンへ引っ込んでいった。 その後ろ姿を見送り、コマネチはようやく呼吸が止まっていたことを思い出しゆっくりと息を吐き出した。 「…今の人、綺麗だったねぇ。」 独り言のように呟き、向かいに座ったプーチンを見る。 自分と同じように見惚れているだろうと思っていたが、プーチンの顔は一点を見詰めたまま、青ざめていた。 「プーチン?どうしたの??」 名前を呼ばれて、プーチンは視線をコマネチへと合わせた。 そして一言、こう言った。 「コマネチ、逃げよう。」
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