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領主の名前は、キルネンコという。 彼の両親は彼が成人する前に不慮の事故で亡くなっている。 若くしてその有り余る財産を受け継いだ彼は後見人を立てることなく、優秀な頭脳と類稀なる才能でこの土地を治める大領主となった。 世間では金や黒が多い中、薄桃色の長髪が特徴的なキルネンコは美しく整った顔をしていた。 異性は勿論、同性をも虜にするその美しさの前では誰もが溜息を吐かずにはいられなかった。 頭の回転も良く様々な武術に長けているキルネンコは「完璧」な人間だった。 完璧すぎるが故に、彼の性格は歪んでいた。 あくせく働くこともなく恵まれた環境の中で日々退屈を持て余している彼は、ふと思いついた時、下界…領地の街や村…へ出掛け、気に入った人間を"選ぶ"。 選ばれた者達はその退屈しのぎの為だけにキルネンコの屋敷へと"連行"される。 そこで何が行われているのか…それは、誰も知らない。 ただ、今までに選ばれた者達が屋敷を出るとき、報酬として身に余る程の大量の金貨を貰うのだが…まるで魂を抜かれたかのような状態で帰されるのだ。 大きな報酬の代償として魂を狩られたのだと、人はいう。 選ばれた者のその後の人生は悲惨なもので、大概は発狂するか、そうでなければ自ら命を絶つ。 定められた運命のように繰り返されるその悲惨な最期を、誰もが目を伏せ何事も無かったかのように記憶から消し去ってきた。 母親が居なくなっても泣き叫ぶ子供すらいない。 目に付く行動を起こせば、今度は自分がこうなるのだと本能で感じているのだろう。
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