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カビは凹凸に沿って進んでいく。
戦車の駆動音も、少女の制服も、まだ遥か先にあるようだ。
だが、追い付ける。
カビは確信していた。
夢の世界では不可能などない。
想像に限界がないように。
カビは靴紐を結び直した。
時たま夢の中で使ってきた秘技。
現実の限度を超えた技。
高速飛行。
カビは望めば空でも飛べるのだ。
体を宙に漂わせ、心の中に空飛ぶ自身を描く。
すると。
途端カビは舞い上がり、鳥類も顔負けの速さで飛んでいった。
眼下でキャタピラの爪跡が流れていく。
全身で風を受け、心地好くなりながら、一匹の獲物を逃すまいと、カビは目を光らせた。
逃げられるものか。
高校生よ。お前に空を飛べるか。
いいや、飛べまい。
だが俺は飛べる。
夢の主だからだ。
お前は俺のしもべでしかない。夢を構成する一員でしかない。
たかが一部品が、主人に歯向かうのが間違いなのだ。
捕まえてみせる。償わせてやる。プライドを懸けて。
カビは尊大な心持ちでその少女を追跡していく。
やがて発見した。
道端で停車した戦車。
そしてその上で寝そべる少女。
思わず顔が綻びる。
手間を掛けさせやがって。
こうしてやる。
カビは急降下し、戦車を叩き潰さんと拳を振り上げた。
夢なら全てが可能だ。
夢なら俺は最強だ。
少女は眉をぴくりと動かし、危険を察知して戦車から飛び降りた。
当然の事、カビの一撃によって、戦車は大破し、四散した。
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